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コム シェ ミッシェルでのひとときをご紹介します

すべてのシェフは、きっと一度は、魔法使いになれたら、と考えたことがあるに違いない。
店に来てくださったすべての方が、料理を食べ、まるで魔法にかかったように、幸せな笑顔を浮かべ、店を後にする。
昨夜喧嘩した夫婦も、はじめてのデート中のカップルも、まだ少しよそよそしい仲の職場の同僚たちも……

少し気が強く、偏屈なところがあるけれど、いつも何に対しても真摯で、あまり多くはないけれど時折見せる笑顔が素敵な彼女を、とても大切に感じている、少し気が弱く、照れ屋で、優しい彼の、ある夜のおはなし。

たまたま通りかかった、窓からやわらかい光がもれるどこか親密な雰囲気を感じさせるビストロレストランに吸い込まれるように入った彼女と彼。運ばれてくる料理に、ひとつひとつ嬉しくなって、ワインも進み、彼女と彼はとりとめもない会話をした、いつものように、だけど少しだけ饒舌に。今日はふたりにとって、何の記念日でもない、なんでもない夜。だけど、デセールの後、彼女がそっと見せた笑顔は、特別に素敵だと、彼は感じた。

それは、シェフの魔法だったのか、それとも、彼女と彼が魔法使いだったのか。

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